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玄関に向かい、棚から鍵を手に取る。靴に足を通し、扉を開く。
朝の出発はそれだけの動作で完結するはずだが、踵を踏まないように屈む動作が一拍を挟んでいた。
靴べらを探して戻る、指を差し込んで形を直す。扉の前で、動線が一度途切れていた。
靴べらを探す、その一拍

合成皮革の靴は、踵のカーブが固い。
足を滑り込ませようとすると、踵の縁が足首に当たって戻ってくる。
指を添えて形を保ちながら足を押し込む、あるいは靴べらを取り出して屈む。
どちらの動作も、出発の直前に発生する。玄関に立ったまま、動作が完結しない状態が続いていた。
踵が沈む構造
HOSP(ホスプ)の踵部分には、ストレッチ素材が使われている。
立った状態で足を差し込むと、踵の布地が足の形に沿って沈む。
押し込む力は必要ない。足の重みだけで、踵が収まる位置まで下りていく。
アッパーの合成皮革は表面が滑らかで、足の滑り込みに抵抗が生じない。

甲のバンド構造が足を固定し、踵が落ちたあとも靴が足についてくる。
ラバーソールの接地面は広く、フラットな形状が床との接触を安定させている。
看護師向けのワークシューズをベースに設計された構造が、この動作の連続性を支えている。
動作が止まらない
足を差し込む。踵が沈む。視線はすでに扉の方に向いている。
手は棚の鍵の方へ伸びている。屈む動作が発生しないため、身体の重心が移動しない。
靴を履く前と後で、立っている位置が変わっていない。
玄関の叩きに差し込んだ光が、足元の合成皮革の表面で反射している。動作のあいだ、視線が靴に戻ることはなかった。
選択はすでに終わっている
棚に置かれた鍵を手に取り、扉のノブに触れる。
足元では、踵の布地がまだ足の形を保ったまま留まっています。
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