五月の朝、松戸を出る
5月16日、土曜日の朝6時。松戸を車で出発した。この週末、浅草では三社祭が賑わっているはずだが、向かう先は逆方向だ。茨城と千葉にまたがる「東国三社」——鹿島神宮、息栖神社、香取神宮——関東最強の厄除けルートの三社を、日帰りで巡る。
目的は3つ。東国三社守の完成、奥さんの病気平癒祈願、そして12年に1度しか授与されない「双宮守(そうぐうまもり)」だ。ただのスタンプラリーではなく、朝の清らかな気の中で、きちんと祈りを届けるための旅だ。松戸から鹿嶋まで約100km。この時間帯に出れば、道は空いている。
07:30 鹿島神宮:静寂の森と「突破」の祈り
7時30分、鹿島神宮の第一駐車場に到着した。土曜の朝としては驚くほど空いており、大鳥居に近い位置に車を止められた。一歩境内に踏み込むと、参道の空気が変わる。鬱蒼とした常緑樹の森が両側から覆い被さり、5月の朝の光が葉の隙間から細かく地面に落ちている。中央は神様の通り道とされるため、端を歩く。

拝殿で二礼二拍手一礼。武甕槌大神(たけみかづちのかみ)に、奥さんの病気平癒を伝えた。

続いて奥参道を歩き、奥宮へ向かう。朝の奥宮は参拝者がほとんどおらず、森の奥に静かに建っている。

武甕槌大神の”荒御魂”が祀られるこの場所で、もう一度、頭を下げた。病気平癒というのは、裏を返せば「突破」の祈願でもある。

奥宮を出て、「要石」へ立ち寄る。地面にわずかに頭を出すこの石が、地震を引き起こす大鯰を押さえていると伝わる。小さく目立たない石だが、地下に6mも伸びているとされる。揺らがない、という意味を、体の中に静かに置いた。

最後に「御手洗池」へ。湧き水が満ちた池は透明度が高く、光の反射が水底の砂をゆらゆらと動かして見せる。ここで呼吸を整え、8時30分の開所に合わせて授与所へ。

東国三社守(本体)、病気平癒守を受け取り、双宮守の片方を授かった。双宮守は鹿島神宮と香取神宮が片方ずつ頒布し、両社で揃えて初めて完成する。12年に1度の式年大祭を記念した特別なお守りで、鹿島で受け取った片方は、香取神宮での参拝を待っている。

09:00 息栖神社:さざれ石に目を奪われた「忍潮井スルー事件」
鹿島から車で約20分、9時に息栖神社(いきすじんじゃ)に到着した。三社の中では最もコンパクトな境内で、鳥居をくぐるとすぐに拝殿が現れる。参拝者の数も少なく、静かだ。

この神社の最大の見どころは、「忍潮井(おしおい)」と呼ばれる日本三霊泉のひとつだ。海水域の中に真水が湧き出す不思議な井戸で、底には男瓶・女瓶と呼ばれる甕が沈んでいると伝わる。事前に調べ、楽しみにしていた。
しかし。境内の一角に、山のような岩の塊が置かれているのが目に入った。「さざれ石」だ。

君が代に詠まれ、小石が長い年月をかけて石灰質で固まり大岩となったもの。想像していた何倍もの迫力で、そこに鎮座していた。近づき、表面の質感を確かめ、角度を変えて見ているうちに——気づいたら、拝殿で参拝を済ませ、2面目のシールをいただき、駐車場へ歩いていた。
忍潮井を、完全に忘れていた。
「また来なさい」ということだと解釈し、車に乗り込む。三角柱がもう一面埋まり、完成まで残り一社となった。
09:50 香取神宮:三社守が「結ばれる」瞬間
息栖から車で約20分、9時50分に香取神宮に到着した。鹿島神宮と並ぶ規模を持ち、参道は砂利敷きで広い。

朱塗りの総門、続く楼門と抜けて、拝殿へと続く動線が明確だ。

祭神は経津主大神(ふつぬしのかみ)。剣の神として、迷いや悪縁を断つとされる。この旅で祈ってきたことの最後として、「悪い結果との縁を断ち切る」という言葉を、心の中で静かに置いた。

境内には鹿島と同様に「要石」があり、こちらは鹿島が頭、香取が尾を押さえると伝わる。二社が対になって、日本の大地を固定している。

授与所で3面目のシールを受け取り、東国三社守が三角柱として完成した。そして双宮守のもう片方を授かり、鹿島で受けた片方と対になった。鹿島の武甕槌大神と香取の経津主大神、日本神話の国譲りで力を合わせた二柱の神様が、ひとつのお守りに収まった形だ。バラバラだったピースが物理的にひとつに結ばれる、その重さが手の中にあった。
10:30 香取参道ランチ:天ざるそばと、旅の着地
香取神宮の門前町には、参道沿いに食事処が並んでいる。10時30分、三社を巡り終えた後の空腹で入った蕎麦屋に腰を落ち着けた。

注文したのは天ざるそば。5月の風が通り抜ける店内で、揚げたての天ぷらと冷たいそばが出てきた。歩いた足に、体の芯から染み込む食事だった。参道を歩く人の流れを見ながら、ゆっくりと時間をかけて食べた。

11:00 帰路:利根川沿いの2時間
11時に香取を出発し、利根川沿いの道を西へ向かった。広い川幅と開けた空が車窓を流れていく。高速に乗らず、一般道をのんびりと走る選択が、この旅の余韻を引き伸ばした。さざれ石に気を取られて忍潮井を丸ごと忘れた、という事実を、ひとりで何度か反芻した。13時過ぎ、松戸に帰着した。
15:30 まだ明るい時間に、居酒屋へ
帰宅後、汗を流して着替える。外はまだ明るい。15時半、なじみの居酒屋の暖簾をくぐった。昼と夜の境目のカウンターに、ウナギ、マグロ、馬刺しが並ぶ。

日本酒を一口含むと、今日通過した三つの森の空気が、遠くからかすかに戻ってくるような気がした。

料理の皿が空いていくにつれて、朝7時30分に鹿島の参道に立った時間が、遠くなっていく。窓の外はまだ夕暮れ前の光が残っている。東国三社守は、テーブルの端に置いたままになっている。
東国三社巡り|タイムスケジュールと実走データ
| 時刻 | 場所・行動 |
|---|---|
| 06:00 | 松戸出発(常磐自動車道経由) |
| 07:30 | 鹿島神宮 到着・参拝開始 |
| 08:30 | お守り授与所 開所・東国三社守(本体)・病気平癒守・双宮守(1社目)受領 |
| 08:40 | 鹿島神宮 出発 |
| 09:00 | 息栖神社 到着・参拝・2面目シール受領 |
| 09:30 | 息栖神社 出発 |
| 09:50 | 香取神宮 到着・参拝・3面目シール受領・双宮守(2社目)受領・三社守完成 |
| 10:30 | 香取参道 昼食(天ざるそば) |
| 11:00 | 香取出発 |
| 13:00過ぎ | 松戸帰着 |
松戸IC→東京外環自動車道→東関東自動車道→潮来IC経由で鹿島神宮まで約100km。三社間の移動はいずれも車で20〜30分以内。早朝に出れば三社すべての参拝を10時台に終えられ、昼前に香取を出発できる。
注意点
鹿島神宮の授与所は8:30開所。 早朝参拝組は奥宮・要石・御手洗池を先に巡ることで、待ち時間なくスムーズに授与所へ向かえる。
息栖神社「忍潮井」は鳥居の外側にある。 拝殿参拝に集中すると、そのまま境内を出てしまう。境内外の一之鳥居付近の井戸を意識して確認しておくこと(筆者は確認し損ねた)。
5月の三社はどこも混雑が少ない。 夏の土用の丑前後や年末年始は駐車場が埋まるケースがある。ゴールデンウィーク明けの5月中旬は、最も空いている時期のひとつだった。
服装は歩きやすさ優先。 鹿島は奥宮・要石・御手洗池まで往復すると40〜50分の森の中を歩く。足元はスニーカー以上が必須。5月でも朝は気温が低く、薄手の羽織が1枚あると体温調整がしやすい。
まとめ
朝6時に松戸を出て、13時過ぎには帰宅できる。日帰りで三社を巡るなら、この時間軸が実際に機能します。

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